ルイの独白

我が輩は犬である。
名はルイと称す。
由来は、フランス国王からとったと思いきや
”類は類を持って集まる”というのが真相らしい。
平成６年５月生まれのゴールデンレトリバー。

僕が、川畑家に来たときの家族の喜びようは尋常ではなかった。
お姉ちゃん達３人は、
前から「飼いたい、飼いたい」と両親にねだっていたようだ。
それが、突然のお出ましなので大騒ぎとなった次第。
本来は、ホームステイのつもりで犬屋さんから預かってきたのだそうだが、
子供達の喜びようをみて、返せなくなったというのが本当のところらしい。

それからが大変。
生後２カ月の僕をおもちゃ代わりにする始末。
おちおち休めない日々が続くこととなったのだ。

当座の住まいは、リビングルーム。
ドッグ用の大きなケージに入れられた。
「オシッコは、ここでするねんで！」
と言われても、
初めはわからないのでいろんな所でしてしまった。
その度に、キャーキャー言いながら、
雑巾を持って後始末をするお姉ちゃん達。
あまりに行儀が悪いので、
しばらくしたらガレージに転居させられてしまった。。。

散歩に行けるようになったは、２カ月たってからである。
それまでは、菌に感染しやすいとのことで、
ドクターストップがかかっていた。
しかし、庭でしっかり運動していたので、
足腰は丈夫になっていた。

散歩は、三人のお姉ちゃんを従えていくのである。
エッヘンオッホンと先頭を切る。
臭いのするところでストップ。
クンクンと嗅ぐ。
実にいろんな臭いがあるものだ。
今までは、こそっと闖入してくる猫の臭いしか
嗅いだことがなかったものだから、
おったまげてしまった。

お父さんと行くときは、様相が一変する。
おっと、僕は川畑家では長男ということになっている。
だって、女ばかりの姦しい家庭に男は２人（？）のみ、
男同士の話し相手に僕の存在は大きいのだ。

ただ、このお父さんは、躾が厳しくてまいってしまう。
散歩の時でも先頭に立とうものなら、直ぐさま呟きが聞こえてくる。
「勝手に前に出んな、
横につけって言うてるやろう」、
「あんまり寄り道すんな、
まっすぐ前を向いて歩かんかぇ」等々、
まるで盲導犬の教育のようなことをのたまうので、
正直言って疲れてしまう。
散歩を一番の楽しみにしている僕は悲しくなるのである。。。

しかし、良いこともある。
前方から暴力団風の大型犬などが来たときは、
すぐガードしてくれるから助かる。
マナーの悪い飼い主に限って、
放し飼いにして散歩するのだ。
もちろん、訓練を受けた仲間はおとなしいもので安心できるのだが・・・・・・。

マナーといえば、愛犬家の風上に置けない飼い主がいる。
糞の始末をしないのだ。
公園などの芝生にこんもりとソフトクリーム状に盛り上がっていたりする。
子供達が遊びに来ても汚くて、ノビノビ遊べないのだ。
自分の家であれば片付けるだろうに。
公衆道徳のかけらもない。
日本は、まだまだ後進国だなあと思うのだ。
といっても、よその国を僕は知らないのであるが・・・

僕のもう一つの楽しみは、入浴シャンプーである。
二ヶ月にいっぺんぐらい風呂場でお姉ちゃんに洗ってもらう。
毛が長いから大変面倒。
だけどお父さんに似て、温泉が好きなのである。
お湯をかけられたら、思わず目を細めてうっとり。
できたらバスタブに入れてほしいのだが、
体重が増えた今はそうはいかない。
何キロあるかだって？
内緒だけど４０キロ足らずだよ。

そのため、ガレージから
庭の一角の大型犬用のハウスに住むことになったんだ。
柵もしてもらって、占有面積は五坪ぐらいか、
贅沢な犬だと人間は言う。
しかし、僕は長男だから当然だと澄まし顔をすることにしている。
横道にそれてしまったが、とにかく風呂が好きなんだ。
できれば全国各地の名湯に連れて行ってほしいぐらいだ。

風呂上がりには、お姉ちゃんがドライヤーをかけてくれる。
お父さんと違って髪がフサフサなので時間がかかる。
都合一時間はたっぶりかかる。
入浴回数が少ない所以である。
しかし、暖かいときは、水撒きの際に一緒にかけてもらう。
水をみたら逃げ出す犬もいるらしいが信じられない。
僕は雨降りでも散歩は厭わない。
ただ、水に濡れた後はブローをしてくれないので、
浮浪児のようにみすぼらしくなってしまうから、少し、いやだけど・・・

お母さんは、時々、毛を専用ばさみでカットしてくれる。
お店でしてもらうようにいかなくて、
虎刈りになるときがあるが、僕は文句は言わない。
だって、阪神タイガースのファンだもの。
お正月の前には、専門のお店でシャンプーをしてもらい、男前になる。
小さいときは、仕上げにリボンを付けられて悦に入ったこともあった。

検診に行くときは気が重い。
体重があるので、七種混合とかの注射を打たれたり、
いろいろチェックされる。
フィラリアの薬もたくさん飲まされる。
お父さんに、経済的負担をかけているのだなあと申し訳なく思う。

しかし、家族でこんな話をしている。
「ルイが来てから、暮らしのリズムが良くなったなぁ」
というのだ。
「ルイのいない生活なんて、今では考えられへんね」
と、異口同音にいう。
僕は、少し鼻が高くなる。
これでも家族の絆のために役立っているのだと、満足感に浸り、思わず目を細めてしまうのである。